「ねぇ八戒、ちょっと教えて欲しい事があるんだけど・・・いい?」

「僕に・・・ですか?」

「うん、知ってるかなぁ・・・」

ある日、あたしは台所にいた八戒にあるお菓子の作り方を尋ねた。
お菓子の名前をど忘れしてしまったあたしは、一生懸命そのお菓子の外見や味を八戒に伝えた。
微かな記憶を辿って喋るあたしの言葉を苦笑しながら聞いていた八戒だったが、急に台所にある本を取り出すとその中に載っていたひとつのお菓子を指差した。

「これじゃないですか?」

「そう、これ!これが作りたいの!!」

それから足りない材料を買いに行って、八戒と二人でそれを作った。
八戒も初めて作るというお菓子だったが、さすが八戒というべきであろう。
大した苦労もせず、あの日あたしが吠登城で食べた「麻花」を作ることが出来た。










あたしは出来たての麻花と中国茶を持って部屋で休んでいるであろう悟浄の元へ向かった。

「悟浄・・・起きてる?」

コンコンと部屋の扉を叩いて暫くすると、悟浄が扉から顔を覗かせた。

チャンか・・・お呼び?」

「うん、ねぇ一緒にお茶しよう?」

あたしは悟浄の目の前に持ってきた麻花とお茶を差し出してにっこり笑った。

「へぇ・・・何か珍しいもん持ってんじゃん。これ麻花だろ?」

「うん、さっき八戒と一緒に作ったの。」

「八戒と!?」

「うん!初めてにしては上手でしょv」

「お菓子ねェ・・・相変らず器用なヤツ。」

「折角だから外で食べようよ。」





そう言ってあたしは渋る悟浄を半ば強引に庭へ連れ出し、青空の下あの日の独角ジと同じように並んで悟浄と一緒に麻花を食べた。

「・・・美味しい?」

「ん?あぁモチロンvこれがチャンの手作りだと思うと尚更ウマイ!」

八戒と一緒に作ったと言ったけど・・・実際八割方八戒が作ったというのは黙っておいた方が良さそう。
麻花を食べながら悟浄は珍しく空を眺め、更に遠くを見るような目をしていた。
そんな目をやっぱり何処かで見た事があるあたしは、あえて何も言わず空になった湯飲みにお茶を注いだ。



悟浄は黙々と麻花を口に運び、ぼーっと遠くを眺めていた。
やがてその手がピタッと止まるとと同時に、悟浄がゆっくりとあたしの方を見た。

「・・・何か今、すっげー甘えたい気分。」

「・・・どうしたの?」

何となく理由は分かるけど・・・。

「なんだろなぁ・・・良くわかんねェや・・・」

そう言うと悟浄は芝生の上に座っていたあたしの膝に向かってゆっくりと体を倒していった。
いつもだったら悲鳴をあげてしまうほどの状況なんだけど、今日は何だか悟浄に優しくしてあげたい気分。
膝に置かれた悟浄の頭にそっと手で触れる。
気持ち良さそうにあたしの膝に頭を置いた悟浄は、日の光を遮るように片手を顔に乗せると暫くそのままジッとしていた。
やがて空いている方の手で側にあった麻花を掴むと、弄びながらポツリポツリと話しはじめた。

「俺がまだガキの頃・・・爾燕の兄気がこれ買ってきてくれてな。菓子だっつーから思い切りよく食らいついたワケよ。」

「・・・うん。」

「したらこれがもうスッゲー硬くてな、ガキの歯じゃ噛めなかったんだよ。」

「・・・」

「こんなの食えねぇ!!って、思わず麻花を兄貴に向かって放り投げちまったんだよな。」

「・・・八つ当たり?」

「ん、まぁそんなもんかな。それでも兄貴は怒りもせず、俺にとっては固くてでかかった麻花を食いやすいように小さく砕いてくれて・・・放り投げたオレの手に乗せてくれた。」

悟浄の表情は手で隠されて一切見えない。
隠れた部分以外は、いつも見ているかっこいい悟浄のまま・・・。
あたしは光を遮る為に置かれている手をそっと掴むと、ゆっくりその手をどけていった。

「・・・優しいお兄さんだね。」

隠されていた手から現れたその目は・・・いつも見せる不敵な、強気な目じゃない。
きっとこれは幼い日、爾燕と一緒に麻花を食べた時の悟浄の表情。

「・・・美味かったゼ、麻花。」

「褒めてくれてありがとう。」

少し照れながらお礼を言うと、いつの間にかあたしの後頭部に悟浄の手が置かれそのままゆっくり悟浄の顔へ引き寄せられていった。

「ご、悟浄・・・?」

「麻花の・・・お礼。」

少し細められた悟浄の視線から目を離す事が出来ず、悟浄の唇まであと数センチと言う所でバタバタと言う足音が聞こえたかと思うと、目の前で悟浄が急にむせかえった。



「げほっっ!!」

「何だよ悟浄!一人で菓子食ってる上、に膝枕なんかして貰って・・・このエロ河童!!」

「ご、悟空!?」

横になっている悟浄のみぞおちに見事にダイビングをしたのは・・・ここにはいないはずの悟空。
そして涙目になっている悟浄の足元には、太陽を背にしょって銃の照準をピッタリ悟浄の眉間に合わせている三蔵。

「三蔵!?」

「ダメですよ、いくら屋外で人の目があるとは言え悟浄と二人っきりになっちゃ・・・」

そう言って背後からあたしの脇の下にそっと両手を差し込むと、まるで小さな子供を扱うかのようにあたしの体を上に持ち上げたのは・・・

「八戒!?」

「いでっっ!」

あたしが八戒に抱き上げられたという事は、自然と膝に乗っていた悟浄の頭は地面に落下すると言う事で・・・足元を見ると悟浄が涙目になりながらお腹と頭を押さえている。

「イキナリ出てきて何すんだよ!!」

「いえ、と一緒に作った麻花が予想以上にたくさん出来たので、三蔵が今日この辺りに来る事を聞いていたので呼びに行ったんですよ。」

にっこり笑ってはいるが、その目は眼下の悟浄を半ば睨みつけるような感じ。
悟空はいまだ悟浄のお腹の上に馬乗りになったまま、三蔵は銃口を悟浄の眉間に合わせたまま芝生の上に腰を下ろした。
で、あたしはというと今だ八戒に持ち上げられた状態で・・・そこそこ体重があるあたしとしては八戒に負担がかかると悪いので、ちょんちょんと八戒の腕をつついた。

「あの〜八戒、下ろしてもらえると嬉しいんだけど。」

「あぁこの体勢じゃ辛いですよね。」

まぁ確かに・・・子供が親に高い高いをしてもらっている状態だからね。
そのまま地面に下ろしてもらってホッとしたのも束の間、八戒は少し屈むとさっきとは別の形であたしの体を抱え上げた。

「はっっ八戒ぃぃ!!!」

「お仕置きですよ、僕が戻るまで待ってて下さいって言ったでしょう?」

至近距離でにっこり笑う八戒・・・しかもあたしの体勢はいわゆる乙女の夢、お姫様抱っこ。
ぎゃあぎゃあ騒いでいた悟浄と悟空も目を丸くしながらその様子を唖然と見ている。
三蔵ですら悟浄の眉間にあわせていた銃口が若干下がっている。

「少し待っていて下さいね、今お茶を入れ直してきますから。」

「ゴメンナサイ八戒っ!謝るから許してっ、下ろしてぇ〜っっ」

「はいはい、台所に着いたら下ろしてあげますからね。」

くすくす笑いながらわざとゆっくり家に向かって歩いていく八戒。





それからお仕置きを終えたあたしと八戒が、大量に作った麻花とお茶のお代わりを持って庭に戻った時、いつもと同じちょっと不敵な笑みを浮かべた悟浄がそこで待っていた。




Present Top


オマケです。
これはリクエストとはまったく別です。
結構長いお話・・・と言うかゲームみたいになってしまったのでお疲れ様でした&ここまで読んでくれてありがとうの意味を込めて書きました。
ま、おまけになるのかどうか微妙ですが、道中全然ドリームじゃない気がしたので最後は思い切りドリームにしてみました(笑)
少し甘える悟浄が書きたかっただけ(苦笑)
八戒にお姫様抱っこしてもらいたかっただけ(爆笑)
微妙に吠登城の独角ジと庭で話す悟浄の気持ちが繋がっている風に書きたかったんだけど・・・難しいですわ(涙)
ヒロインも全てを知っているくせに知らないフリをする・・・かなりしたたかなおねぇちゃんですね。
吠登城内は全て適当でございます。こじつけです。信じる人いないと思うけど一応言っておこうかと・・・。